第十話 何度も、手を振り払ってしまったあのとき
施設で会った子たちのこと、もう亡くなっていってしまった子たちのこと、毎日思い出します。楽しく過ごした毎日のことも思い出しますが、やっぱり、後悔していること、申し訳なくてたまらないこと、たくさん思い出します。
ズンナシという17歳だっていう女の子が上の階にいて下半身全体が麻痺をしていました。いつもたくさん汗をかいていて背中からお尻にかけてできてしまった、ひどいぐちゅぐちゅの血だらけの床ずれと股間の部分に腫瘍ができていました。
あと、肺に痛みがあり、床ずれの手当てをするときに体を、横向けに動かしてするのですが、そのとき、肺の痛みが強いようで、いつも治療しているあいだ、
「チャラカ、まだ?まだ終わらない?痛いよ。痛いよー、苦しいよー」
って言っていて、
「ごめんね。ごめんね。あともう少し、もう少しだから」
って言っていつも急いで腐った皮膚をメスで切り取って薬品つけたり、汚物を取り除いていました。
「今日も、一緒にご飯食べよう。チャラカ一緒に食べないんだったら、私、ごはん何にも食べないから」って私が来るのよく待っていてくれました。
ズンナシの股間から、真っ黒な塊のような血がたくさんでてきてしまっていて、でも、このとき私では、どういう処置をしたらいいのかわからなくて、ドクターを探しにいこうとすると、ズンナシ痛いよーって叫びながら、お願い、チャラカドクターは呼ばないでっていいました。
私は、うん。うん。って言いながらもドクターを探して来てもらいました。
ドクターが現地のナースのプラクティスの子達と一緒にきたのでこれで安心だと思って、少し様子が気になりましたが、他の病室の子たちの手当てに行きました。
午後になってズンナシの様子を見に行くと、ドクターは腫瘍の大部分を切り取っていてズンナシは涙を流しながら、ぐったりしていました。
ズンナシは、私を見て、
「どうして、ドクター呼んだの?どうしてそばにいてくれなかったの?」
って泣きながら言いました。
「ズンナシ、お願いドクター呼ばないで。呼ばないで」
って私に何回も言いました。
私はわかったわかったなんて言いながら、その子の話を聞こうともせずに待ってっていう言葉を聞き流してドクターを急いで呼んできました。
一瞬でも何で話きいてあげなかったんだろう。見たこともない男の子のナースの子達で心細かったし、少し怖かったのもあったのかもしれなかったのに。
いつもよく話してくれるズンナシだったけどこのときはもう話してくれませんでした。
次の日の朝、また様子を見に行ってみると眠ってしまっていてまた後でこようと思って、別の階でしばらく手当てをしていると他の患者さんが、ズンナシがチャラカのこと呼んでいるよって教えにきてくれました。
この子の手当てが終わったら行こう、って何回も思いながら何人かの患者さん手当てしていたら行くのが遅くなってしまって、慌てて行くと、たくさんの血を吐いてきれいな目開いたまま、もう固まってしまっていました。
私がこの施設にきて少し経ったとき、一人の30代後半ぐらいの患者さんがいていつも、うーうー苦しんでいてとても辛そうでした。
このママは、自分の名前もどこに住んでいたかも覚えてなかったのか話たくなかったのか、
「ママ、お名前はなんですか?」って聞いても
「しらない。わからないよ。どうして?」
って答えていました。
あるとき、ママのすぐとなりのベッドにいる女の子のところに、専門のドクターがきてくれて、その女の子の手当ての指示を聞いていました。
忙しいドクターの早口の言葉、聞き取るのに必死でメモしていて、でもママが私の白衣のはじ、ひっぱっていて、ママ、ちょっと待っててね。ってその手、白衣からとって、またドクターの言っていることメモしはじめると、また白衣、ママひっぱるから、ママーごめんね。あとちょっと…。ってまた白衣から無理やりママの手とって、何回かそうしていました。ママがそうやって私の白衣、ひっぱるの珍しいことじゃなくて、もう少し待っててねーっていつもの感じで思っていてドクターの指示がやっと終わってママのほう振り返ってみると、私の白衣をつかもうとしたまんまの手、だらんとベッドから外にだして息ひきとっていました。
亡くなる寸前のときに、最後の力だして伸ばした手を何回も振り払われたママはどう思っただろう。
私、ママの顔みようともしなかった。
ズンナシも亡くなる寸前に一生懸命声を出して私を呼ぶように伝えてくれたのに。
いろいろメッセージや、涙がでるぐらい嬉しくなるコメントいただいて恐縮で恐縮ででも私のとってしまった行動で患者さんたちに悲しい思いをさせてしまったこと数え切れないです。
今はまた施設でのボランティアを離れていますが、しばらくしたらまたどこかの場所いってみようと思っています。
2008年1月16日 原題「ズンナシとママのこと」