第五話 約束を守ってたら死ななかったのかもしれない
いつも、ぽつんと一人で、ヤンキー座りをして日向ぼっこをしている子がいました。
バイユシって言って少しだけ変わった顔立ちをしていました。
体はがりがりで、髪はエチオピアの子にしては珍しく、そこまでグリグリした髪質ではありませんでした。目がとても大きく、男の子のような顔立ちで、目つきが鋭い印象でした。
いつも私がそばを通って挨拶すると、
挨拶もせずに、
「チャラカースウィーツがたべたい。ちょうだいよー」といつもおねだりしてきてきました。
「最初にあったらおはようだよーバイユシ。おはようーー。バイユシは、自分で何でも食べれるし、ひなたぼっこもできるからだめー具合が悪い子だけだよ。ごめんね。それにきのう、キャンディー支給されたでしょー」
いつも
「チャラカ 意地悪ーぶさいくー」
って言ってそばをうろちょろするかんじでした。
彼女もHIVポジティブで股間に大きな腫瘍がありました。この腫瘍のせいで、しっかり椅子やベッドに座ることが出来ず、いつもヤンキー座りでした。
他の患者さんとそこまで交流を持ちたがらずいつも一人でいました。この子の腫瘍も少しずつ成長してしまっていました。
最初の3ヶ月ほどは、ひたすらアディスの施設にいたのですが、ひとりの女の子が亡くなったのをきっかけに、あと女性の棟で働ける新しいボランティアのかたがきてくれたのもあって、
私はアディス以外の場所みんながいう、村やほかの場所もみてみようと思って地方にある施設にいくようになりはじめたときでした。
ある時、1週間だけ南部の施設にお手伝いに行って戻ってきました。
いつも外で日向ぼっこしていたバイユシがベッドに横になっていたのでおかしいなって思って話にいくと、
「チャラカーいきなりね、朝起きたら両手も両足も体が動かなくなったの。頭だけは大丈夫」
って言います。あんまりに突然のことで。
バナナが大好きだったからゆっくり食べさせてあげてすごく食欲はあって少しほっとしました。
HIVのことが気になりましたが、一時的なものだといいけど、って思いました。
それから少しして今度は北部の施設にお手伝いに行くことになりました。
バイユシに「あと1週間で帰るからね。待っててね」
って言いました。
バイユシは、
「次の日曜日に帰ってくるんだねっ」
て念を押して聞いてきました。
わたしは、「うん。日曜日に戻るからね」
って答えました。
私もそのつもりだったのですが、戻ってきたのは10日後でした。途中でもらったバラの花バイユシにあげようと思って、夜、アディスについて、急いでバイユシのところに行くと、違う患者さんでした。うそって思ってみんなに聞くとみんないつものように一生懸命嘘をついてくれているのがわかりました。
「バイユシ いつ…だった…」
ってゆっくり聞くと日曜日だよって言いました。
あって思いました。バイユシ約束どおり私が帰ってくるの待っていたんだって思いました。
「バイユシ いつも今日、日曜日?って毎朝、聞いてきていたよ」って。
少しの用事でアディスに帰ってくるのが遅くなって約束を破ってしまった形になって。
静岡の親友が亡くなる前、私が会いに来るのを待っていてくれたとき、私の母親が、病気で待っている人にとって、待つってゆう時間は恐ろしいほど長いんだよ。って言った言葉思い出しました。
1週間バイユシにとったらすごく長くて、遠かっただろうなって思いました。
軽はずみに1週間って言って戻ってこなかった自分が本当なにやってんだろうって思いました。
なんであのとき、違う施設行ったんだろう。なんで、あのとき、早く帰ってこなかったんだろう。
いつもこういう風なことの繰り返しでいつも罪悪感と後悔でいっぱいでたまらないくせにまた同じようなこと繰り返して。
マラウイは5月は雨期が終わって、日中は日差しが強いですが、冬に向かっている感じです。
朝晩、吐く息が白くなりました。それでも蚊がたくさんいます。
今日は、9歳からの親友の亡くなってしまったけど、28回目のお誕生日です。あとから、おばさんに電話いれてみようと思います。
2007年5月11日 原題「バイユシのこと」