第八話 引き取られない遺体

患者さんが亡くなると、生前にきいていた連絡先、(連絡先がある子は少ないですが…)にワーカーの子が訃報を伝えます。

 

悲しいことに、数日前に教えてもらった確かな番号なのに電話をかけてもその患者さんを「しらない。」というかたも多いようです。

 

ある時、一人の女性が亡くなってしまって、その子のかわいらしい赤ちゃんは、同じ施設の子供の病棟にいました。

 

この女性の場合も、ワーカーの子が番号にかけてもそんな女性はしりませんって言って切られてしまったとのこと。

 

私がワーカーの子に、

「番号間違えたか、番号変わっちゃっているんじゃないのかな?」

ときいてみると、

「そんなことないんだよ。きいたばかりだし。一番近くの村みんなで使っている番号だし、名前確認したよ…」

 

「たまにこうなの。みんな遺体引き取るお金もないし、亡くなった患者さんの残された子供の面倒みきれないから、知らないって嘘ついちゃうの」

って。

 

あーって思いました。

 

返す言葉がでてきませんでした。

 

施設の敷地内に、ぽつんとある、亡くなったかたを収容する棟があります。

 

亡くなってしまった人は、白い布でくるまれてここの棟に運ばれます。

あんまりにみんな痩せこけているのであんまりにその布が細くて、軽くて、ぼろぼろのタンカーに乗せて運ぶ時、心が痛みます。

 

亡くなってしまった人の中に家族がいてご遺体をひきとりにくることが本当にまれですが、時々あります。

 

ご家族のかたは、遠く離れた土地から何日かバスを乗り継いできたり、引き取るために車を借りる費用がかかるため、自分達は何日もかけて歩いてくるかたもいます。

 

そのかたが、ここに到着するまでに、亡くなってしまった人の身体の腐敗を防ぐため、注射を、心臓と胃の部分2箇所にします。

 

苦しんだ顔のままのかたもいてとてもせつないです。

このかた達はどんな人生をどんな風に歩んできたんだろうっていつも思います。

 

ずっと手当てをしていて毎日一緒に過ごした子に打つ、その子が亡くなったあとの注射は、生きていた頃にその子と話したり笑ったりしながら打っていた注射と全然違って、とても苦しいです。

 

2007年3月31日 原題「亡くなってしまった後」